ARIA The ORIGINATION ちょっとした感想

「このシャッターを開けるのが、私の1日の最初のお仕事。

今、開けたらいつもの1日が始まる。 この愛おしい光景が朝の空気に醒める。

でも…大丈夫。これから、今が始まるんだから」

 

ARIA The ORIGINATIONARIAの完結作であることも相俟って、数々の名シーンを生み出した。アリスの成長に灯里のシングル試験、アリシアさんとの離別など、涙の連続ともいえる奇跡の出来。しかし、意外にも最も僕の心を掴んで離さなかったシーンは、こうした「如何にも」なエピソードではなく、最終話で灯里がシャッターを開けるシーンだ。不意に涙が頬を伝ったうえ、いまの僕が決して抱けないだろう勇気を確かに灯里は持っていて、憧れた。

 

シャッターのシーンは、最終話の終盤で登場する。

アリシアさんの引退セレモニーが幕を降ろし、いよいよアリア・カンパニーの新時代がはじまる。だが、それは同時にこれまでの時代が終わることでもある。藍華やアリスとの日常(まぁこれは少し前に終わっているのだが)、アリシアさんが上司としての会社、プリマ時代のあらゆる光景…。別れを捧げるには、あまりに切ない記憶たち。それらを胸に秘めつつ、しかし「今」を生きるべく、灯里はシャッターを開け、未来への一歩を進める。そんなシーンだ。

 

ARIAのテーマのひとつとして、「(今ある)日常が終わること」が挙げられるだろう。

宝のような時間、しかしその日常に別れを告げなければならない時がいつか訪れる。

「いつまでもこのままではいられないと思う。時に優しく、また残酷に時間は過ぎていくものだから」

限定された時間。しかし、「次の時間へ羽ばたくこと」も同時に強調されたテーマだ。

 

これらは1期の段階から示唆されており、たとえば11話は「日常の終息」と「新しい時間を生きること」がテーマになっている。

またARIAは「継承」という形が顕著で、それは裏腹に、時代が移ろうことを意味している。ストーリーの冒頭からアイちゃんが登場し、灯里たちが継承する次世代の存在を描いたこともまた、この時代がいつか終わり、新しい時代が到来することを想像させていた。

 

過去を胸に刻み、そして未来を生きるために描いてきた。

ARIAという作品ははじめから、その日々を「終わらせる」ことが目的のひとつにあったし、「終わらせてこそ」ARIAなのである。

これは当然悲観的な話でなく、「あの頃の楽しさにとらわれて、今の自分の楽しさが見えなくなっちゃうのはもったいないものね」「あの頃は楽しかったじゃなくて、あの頃も楽しかっただな」という、過去未来への希望が隠れている。シャッターのシーンは、「あの頃」に別れを告げ、「今」を踏み出す象徴的なシーンといえる。

 

 

小さなエピソードの集合体で進んでいく作品のラストに関して、たとえば「僕たちのこの日々はつづきます」という結末の日常系や、「”メンバーの卒業”という境目を過ぎた後も、少し形を変えつつ以前のような日々がつづきます」という結末の学校モノ、「日々の終結を描いたが、新しいスタートを描かない」作品等は多々見受けられる。しかしARIAはそういった作品とは一線を画している。

日常の境目に対する曖昧さを一切許容せず、明確に「①今ある日々が確かに終わること」をかなり強調して描いた。また、なにかの節目によって今までの日々が自然と「終わる」のではなく、節目が来たので・意思を持ってシャッターを開け、能動的に「終わらせた」感覚。そして「②新しい”今”が始まること」を結末としての”流れ”ではなく、物語全体のひとつの主題として描く。なかなかの見ごたえだった。

 

ところで、なぜこのシーンが印象に残ったかといえば、僕自身が灯里のような、シャッターを開けるだけの度胸を全然まったく持てないからだ。

大学4年のいま、このアニメを観たことが大きい。もうすぐ別れの季節である。僕の大学生活は、当然灯里のように華々しいものではなかったし、ブツブツと文句を言っていた記憶が深いものの、なんだかんだで周囲の人間を愛していたし、愛されていたと思う。同じ痛みを伴った仲間もできて、心の深い部分で繋がれたような感触もあるし、地獄そのものともいえた高校とは違って、僕には相応しくないほどの、ちょっとした楽園だった。

だからこそ、囚われてしまうのだ。もともと僕は、想い出などという甘美なものに固執してしまうタチで、そして、固執固執を重ねるほど、それは「失われた時間」という虚しい存在へと変化していった。いま心地のよいこの楽園は、しかし就職をしたあとに固執すれば、僕を縛る地獄へと姿を変えるだろう。それがわかっているのに、この瞬間・この日々が終わるという事実を直視できない。時を止めてでもこの空間を味わっていたいと足掻き、未来へ目を向けられないことへの罪。僕も灯里のようにシャッターを開けたいと切に願う。

 

卒業まで残り2ヶ月。「今が始まるんだから」と笑顔で言えるように、この日々に別れを告げられるように生きよう。

 

P.S

ゴンドラお別れ会的なかんじの、「想い出追走散歩会」を友人とやることになりました。たのしみ。